からっぽの中の唄

ショートショートショートの作品を散りばめた星

しごとに行くまつげ

 

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 私の名前はまつげ。人にその存在を知られてはいないけれど、あなたのことを一番そばで見守る存在だ。まつげによってオシャレが好きだったり、あるがままを大切にしていたり、アクセサリーを身に着けるのが好きだったり、多少性格は異なるけれど。私たちはいつだってあなたの味方で、あなたのことが大好きなのだ。

私たちの生活はあなたと共に始まる。朝、一緒に起床し、朝食を取り、仕事に行く準備をする。すれ違う人、散歩中の犬、雲の切れ間から顔を出す太陽。いろんなモノに出会うたびに私たちは背筋をすっと伸ばして、ペコリとお辞儀する。「今日も一日よろしくお願いします」とあなたに代わって挨拶回りをするのが、私の仕事だ。

私たちは日々の暮らしに感謝をし、宿主であるあなたに幸福を呼び込む仕事を誇りに思っている。あなたが生まれてからずっと代々あなたのことを見守り、あなたと共に生きてきた。だから時折、もっと近くであなたを感じたい。あなたに私たちのことを知ってほしいと欲が出てきてしまうことがある。

 あなたのことを抱きしめたいのだと、まつげ村を飛び出した私のことを忘れたことは一度もない。抱きしめるように飛びついた結果、あなたは「痛い、痛い」と涙を流し、私たちの愛をペッと引きはがして、いともたやすく捨ててしまう。だから私たちはあなたの傍でつかず離れず静かに見守ることにした。それが私たちの愛のカタチだと思うのだ。