からっぽの中の唄

ショートショートショートの作品を散りばめた星

お菓子を食べる階段

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 僕の住んでいる街の最寄り駅はちょっとした観光名所になっている。

 知っているかい?―――「お菓子を食べる階段」があるんだ。とっても食いしん坊で、人が落としてしまったパンくずとか、スナック菓子のかけらとか、口元につきっぱなしだったご飯粒とか、時にはシュワシュワと炭酸はじけるコーラなんかも、落ちているものはなんだって食べちゃうんだ。

どうやら僕たちが階段を上り下りしている時の靴音に紛れるようにして、バリバリボリボリと咀嚼しているみたいなんだ。中でもクッキーがお気に入りのようでね。機嫌がいい時なんかはコツコツとしたコンクリートの階段がまるで木琴のように音楽を奏でて、鼻歌を歌っている時もあるんだよ。面白いだろう?その様子を一目見たくて、海外からの旅行客もわざわざ僕らの街を訪れてくれるのさ。

この階段のおかげなのか、駅のホームはいつもホコリ一つないくらいに綺麗だね。掃除する必要がほとんどないって聞いたことがある。条件反射でなんでも口に入れてしまうみたいだけれど、お金を落とした時は必ず持ち主に返してくれるらしい。そういう点は駅員さんも助かっているみたいだ。

 けれど、1つだけ注意しなくちゃならないことがある。くいしんぼうな階段にも苦手なものがあるんだ。それが苦いモノと辛いモノ。前にポトリと落ちたタバコの吸い殻をココアシガレットと勘違いして飲み込んでしまったことがあってね。ゴホンゴホンとそれはもう相当むせて、階段が原型をとどめないほど波打って、階段を利用していた人が全員ドミノ倒しになってしまったのさ。