からっぽの中の唄

ショートショートショートの作品を散りばめた星

ピクニックドラゴン

 

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 ある時、突如として地球に巨大な隕石が落下し、その隕石の中から地球外生命体が発見された。それは所謂ファンタジー世界の生き物だと信じられてきた「ドラゴン」という生き物だった。世界中がパニックになり、各国が連携して世界非常事態宣言を発令。過去の遺恨などは横において、全力を持ってドラゴンという外敵の排除に乗り出した。

けれどそのドラゴンたちには人に害をなそうとする意志がこれっぽっちもなかった。それどころかとても人間に好意的だったため、人とドラゴンの間で協定が結ばれ、人々の生活を手助けする生き物として受け入れられたのだ。その一端を担うことになったのが「ピクニックドラゴン」である。

 ドラゴンたちには体の大きさを自由に変えられるという性質があったため、普段はキーホルダー型で人々の生活に寄り添い、人が背中をなでることを手助けを必要とする合図とし、体の大きさを調整した。おとなしいもの、力持ちなもの、勇敢なもの、母のように深い愛情をもつもの。性格の異なる手のひらサイズドラゴンが誕生することになったのだ。

「ピクニックドラゴンで旅行をしようと思うんだけど、どう?」

 私は新しいもの好きの友人に誘われた。ピクニックドラゴンで旅行をするというのは、既存の旅行スタイルに飽きてしまった人であったり、まるでファンタジー世界の住人になったかのような気分に浸れるとあって、最近人気が出ている個人旅行のことだ。野宿が基本のサバイバル旅行だが、バーベキューのための火おこし、野宿する際の安全確保、旅行の荷物運び、バスや電車で移動することなくドラゴンの背中に乗れるなど、滅多に出来ない体験ができる。

「いや、やめとく」

「えー、なんで?」

まず火力の調整が難しい、バーベキューの肉を焼こうとしても総じて全て消し炭になってしまう。ドラゴンの炎は敵を一掃するための火力なのだ。またドラゴンが現れたことによって、自然界の生態系を崩しかねないという問題がある。ドラゴンは人に好意的ではあるけれど、その図体の大きさは他の生物たちにとって恐怖の象徴なのだ。最後に、これが最もやっかいで被害が大きいのだが―――ドラゴンによる飛行手段は法の整備が整っていない。ドラゴンが空を飛ぶたびに、地上に張り巡らされている電線がはじけ飛び、街中が停電になったり、飛行機との接触未遂が多発している。

 だからピクニックドラゴンを利用した個人旅行は、誰もが安全に楽しめるレベルに達していないと私は思っている。ドラゴンと人の生活が本当の意味で共存するのは、まだもうちょっと先の話になるかもしれない。