からっぽの中の唄

ショートショートショートの作品を散りばめた星

伝説のハリセン

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 街の中心に光り輝く一振りのハリセンが刺さっていた。

 これは、かつて魔王とその配下の怪物たちに支配されていた我が大陸を訪れた女性が「なにやっとんねん、このあんぽんたん!」という呪文を叫びながら、魔王直属部隊を皮切りにバッサバッサと敵を叩きのめし、一夜のうちに魔王城を無血開城させたという、伝説の剣でございます。

「……いや、これ、剣ちゃうやん。完全にハリセンやん」

「そうです、この勇者の剣は"ハリセン"と呼ばれています」

魔王を始めとする悪の心を叩き出し、誰でも例外なく清く正しい姿に変えるという聖なる力を持っています。この"ハリセン"に叩かれた者は本来のあるべき姿を取り戻したため、何百年と続いた暗黒の時代は犠牲者を出さずに終わりを告げたのです。悪は滅び、この大陸に平和が訪れました。そして勇者の剣だけが残りました。

「その女は何者やねん」

「わかりません、悪が滅びた瞬間に姿を消しましたから」

 それからというもの、我が国ではいつか勇者がこの街をふらっと訪れてくれる日を信じて、大切にこの"ハリセン"を保管しています。そうしているといつの日からか、伝説を聞きつけた腕利きの猛者たちが次々に「次の勇者になるのは俺だ」と勇者の剣を抜くためにやってきたのです。それは我々の予想をはるかに超え、勇者の剣に長蛇の列ができるほどでした。私たちは金の匂いを感じて、すぐさま勇者の剣をメインとしたテーマパークを作りました。

「伝説の剣、完全に見世物になってるやないかーい!」

けれど未だかつて伝説の剣を抜くことが出来た人間は誰一人いません。もちろん剣を抜くことも必要ですが、何よりも剣に認められなければ真の持ち主になることはできないという言い伝えがあります。伝説の剣の持ち主として認められる要素、それは『ツッコミをいれたくなる』という性質なのです!

「……つまり?」

「つまり貴方さまが選ばれたのです、我らが勇者よ!」